無痛分娩

麻酔薬を使って陣痛の痛みを軽くして出産する方法で、当院では、硬膜外麻酔による和痛分娩を行っています。「無痛=痛くない」ではなく「和痛=痛みを和らげる」もので、痛みが全くなくなるわけではありません。軽い陣痛は残しておきます。 その理由は、痛みをとりすぎると、陣痛に合わせておなかに力を入れて”いきむ”ことができなくなり、逆に赤ちゃんに負担をかけてしまうことがあるからです。

最近は痛みの少ない「無痛分娩」を選ぶ人が増えています。ご希望の方は事前に医師にご相談ください。

当院の無痛分娩の特長

  1. 麻酔科専門医による管理体制

    麻酔科専門医による管理のもと、無痛分娩に関わるスタッフの手技指導をおこなっております。緊急時の対応にも万全の管理体制を整えております。

  2. 痛みを調節し、しっかりと「いきんで」出産できます!

    全身麻酔では無く、下半身だけの局部麻酔ですので、ママの意識ははっきりしています。痛みや努責感を完全に消してしまうと分娩も止まってしまいますので、無痛分娩といっても、まったくの無痛になるわけではなく痛みを調節し、落ち着いてしっかりいきんで出産することができます。

  3. ママへの負担を軽減します!

    ママによっては陣痛の痛みが過度の負担になることがあります。痛みを軽減することで、ママの体と心が楽になります。

  4. 疲れにくく、回復が早いです!

    長い時間を要する出産でも、痛みが少ないため、ママの体力を長時間維持でき、産後の回復も早くなります。

  5. 赤ちゃんへのお薬の影響はほとんどありません!

    全身麻酔とは違い部分麻酔のため、ママの麻酔薬の血中濃度は非常に低く、赤ちゃんへの麻酔薬の影響はほとんどありません。

  6. 費用は分娩料金にプラス10万円です!

    ※その他、入院日数や分娩時間等によって、加算されることがあります。詳しくは受付へお問い合わせください。

PCA (自己調節鎮痛) 装置を導入

当クリニックでは、お母さんと赤ちゃんの安全と快適さを第一に考えており、無痛分娩中の痛みをより効果的に軽減するため、「PCA(Patient-Controlled Analgesia)」を導入しています。

PCA(Patient-Controlled Analgesia)とは

PCA装置は陣痛の痛みを強く感じた時にご自身でボタンを押して鎮痛薬剤(局所麻酔薬)を追加することができるものです。そのため痛みを和らげる調整ができるメリットがあります。
もちろん安全のために追加できるお薬の量・回数は制限されており、過量に投与される心配はありません。このシステムにより分娩中の痛みを最小限にして赤ちゃんを迎えられます。

pca
また、一定時間痛みがない場合でも、薬の効果がなくならないように定期的に助産師がボタンを押すPIB(Programmed intermittent Bolus)方式を採用しています。ご自身で調整する(PCA)と助産師がボタンを押す(PIB)の導入により、分娩時の痛みをより細かく調整でき、分娩をよりリラックスしたものに変えるお手伝いをいたします。

PCAの特長

  • 自己管理
    お母さんご自身が痛みを管理できます。いつでもボタンを押すだけで、適切な鎮痛が提供されます。
  • 安全性
    PCAはあらかじめ設定した量以上に投与することはないため、ボタンを押しすぎても過量投与の心配はありません。

※分娩進行が速い時は、カテーテルを硬膜外腔へ留置後、PCAではなく、医療者側による調整のしやすい従来通りの持続投与法で行う場合があります。

無痛分娩の注意点

痛みが軽減するほど陣痛も弱くなりますので、お産の平均時間が長くなります。したがって最終的に吸引分娩や鉗子分娩と なる頻度や、子宮収縮薬の使用頻度が高くなります。帝王切開になる率は変わりません。また麻酔薬による赤ちゃんへの直接の影響はありませんが、分娩時間が長引くことによる赤ちゃんへの負担が生じることもあります。

以下の場合は無痛分娩ができない(または途中で中止する)ことがあります。

  • 赤ちゃんの元気がないとわかっている場合(または途中でわかった場合)
  • 前期破水や発熱状態など感染の疑いがある場合
  • お母さんの体力の消耗や脱水がひどい場合
  • 検査の結果、血小板が少ないなど出血しやすいと思われる場合
  • 一部の心疾患(大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症)がある場合
  • すでに子宮口が全開して分娩が進行している場合
  • もともと腰痛がひどい場合(悪化がありえます)
  • 太りすぎや腰骨が曲がっているなどによりカテーテルが挿入できない場合
  • 合併症などを十分に理解せず、事前に承諾書を提出して頂けない場合

また麻酔を実施することによる、以下のお母さんへの合併症が起こりえます。
一時的なものでは、低血圧、頭痛、腰痛、吐き気、尿の感覚がわかりにくい、足が重く感じる、どちらか一方の足に異常感覚が生じる(響く、痛い)、重大なものでは、頻度は非常に低いですが、神経損傷、圧迫による麻痺などの後遺症、薬が脊髄腔に入ったり、血中濃度が上がって麻酔薬中毒(耳鳴り、意識が朦朧とする、痙攣、ショック、呼吸停止を起こす)になる場合があり、この場合は緊急処置をし、場合によっては帝王切開が必要となることがあります。

※上記以外の場合でも、お産の状況や時間帯によっては、ご希望に添えない場合がございます。

無痛分娩の流れ

開始時期

陣痛が規則的に、本格的に始まってから(分娩第1期で陣痛間隔が5分程度、子宮口が3~5㎝開大した頃)実施します。

硬膜外麻酔法

  • 麻酔開始前は原則的に絶食になりますので、点滴をします。
  • 分娩台の上で横向きになり、背中を丸めます。
  • 腰部を消毒してカテーテルを入れる部分に局所麻酔をします。
  • カテーテルを入れるための硬膜外針を挿入します。これは痛くありません。
  • カテーテルが留置できたら硬膜外針を抜きます。
  • テストの局所麻酔を注入し、3分くらい異常がないか様子をみます。
  • 異常がなければ、まず一定量の麻酔薬を注入します。
  • その後は輸液ポンプによって分娩終了まで持続的に麻酔薬を注入します。薬の効き方によって注入量を適時調整します。

分娩時

  • 子宮口が全開になるまでは横向きになって待ちます。麻酔が偏らないように1時間ごとに体の向きを変えます。
  • 全開になったら上を向き、助産師の指導に従って呼吸を整え、いきみます。いきみ方は普通のお産と全く一緒です。
  • 裂傷など縫合時も、多少痛みは楽になりますが、局所麻酔の追加が必要な場合があります。

安全な無痛分娩のために

麻酔科医 佐藤 栄一
麻酔科 部長 佐藤 栄一

最近の無痛分娩の事故に関する報道で、無痛分娩はとても怖いものだという印象をお持ちになる方もいると思います。麻酔の直後に急変した症例のほとんどは、局所麻酔薬が“くも膜下腔に入ったことによる全脊髄くも膜下麻酔”か“血管内に直接入ったことによる局所麻酔中毒”であると思われます。
ベルネットでは、薬を少量ずつ投与しながら意識状態、血圧、麻酔の効き具合を細かく観察することを、マニュアルで徹底することによって、事故を未然に防止するよう努めています。